Sunday, October 16, 2011

書評|出町譲 『清貧と復興』 文藝春秋 2011

「個人は質素に、社会は豊かに」 明治人 土光敏夫の語録

本書は明治生まれの経済人である土光敏夫氏の語録を紹介し、自ら「火種」を持って働く人間像を探る。

 土光氏は明治生まれの経済人である。臨時行政調査会会長時代に「メザシの土光」としてその清貧さで支持を集め、国鉄や電電公社の民営化に貢献した。土光氏は元々タービン技師として石川島芝浦タービンに入社。戦後の公職追放で首脳陣がパージされると五十歳にして社長に就任し、播磨造船との合併を実現した。現在のIHIである。その後、請われて東芝の再建や経団連会長を勤め、引退しようとした矢先に、他に人がいないことを理由に八十代にして先の調査会会長に就任。行政改革に邁進した。

  本書では、公を基準として自分の信じるところを持って行動する人間の強さを学ぶことができる。また、大きな業績と比して非常にシンプルな自己のあり方は、肥大した「私」にまみれた現代において一層の輝きを放っている。 また、本書では経団連時代の土光氏のエネルギー観も集中して紹介されている。もし彼の技術的な見識と先見が生かされていれば、震災での原発事故も最小限に抑えられたのではなかろうかと悔やまれてならない。

 引用を中心にまとめられている本書は、土光氏を今に伝えることに成功している。唯一感じた違和感は、著者の「あとがき」である。土光氏の凄さは自らの「火種」を持つにとどまらず、私を少なくし公へと伸びる強烈な意志だ。現代の土光氏と称された経済人は確かに立派ではだが、同時に土光氏や多くの明治人が持った志とは同じではないように思える。

 また、尊敬はあっても同等の重みを持つ作家として対象に対峙せず、凄い人の肩に乗って他人を教育しようとするイージーさをこの「あとがき」から感じたのが残念だった。

評価:★★☆
(★★★:とても良い ★★☆:良い ★☆☆:普通 ☆☆☆:好きな人向け)

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