| 龍 應台 『台湾海峡一九四九』 |
著者は国民党と一緒に台湾へ逃れてきた人々の視点を基本に置きながら、それぞれの個人史を作品として編んでいく。ある人は国民党に軍人としてさらわれた揚句に台湾に逃げざるを得なくなる。ある人は日本軍や共産党を相手に中国各地を「国」のために転戦した揚句に、国家もろともが吹き飛んでしまった。このように、本書では中国内戦に敗れた側の人々を「傷を抱えた人々」として描いていることが特色である。また、日本軍人として前線に送られた台湾人、日本の戦争捕虜となったアメリカ人、ニューギニアの奥地で果てた日本人の話なども収録されている。
本書の美点は、民族の視点でなく、巨大な歴史のうねりに翻弄された個々人の複雑な感情を、「結論づくでまとめることなく」作品化していることではないだろうか。もちろん触れていない歴史的な事件もある。しかし、歴史の断片を「ありのままに見る仕事」は台湾だけでなく日本を含んだこの海峡周辺の人々の複雑な事実を掛け値なしで書き出してくれる。
参考リンク:龍 應台 著・天野 健太郎 訳 『台湾海峡一九四九』 白水社 2012
評価:★★★ (★★★:とても良い ★★☆:良い ★☆☆:普通 ☆☆☆:好きな人向け)
寸評になっていない寸評:
義務教育で教わった日本の近現代史を思い起こせば、1945年に敗戦があり、1950-53年の朝鮮戦争特需を経て高度成長が起こり「今に至る」で終わっていた。「今に至る」がバブルの終焉した時期であったのは皮肉であったが・・・。
一方、近隣地域では1945年の日本敗戦は復興の起点ではなく、混乱の起源である。朝鮮は戦争によって南北に分断され、中国本土は国民党と共産党の内戦を経て、1960年代後半から70年代には文化大革命で大量の餓死者をだした。台湾は日本統治から中国国民党統治の時代となり、本土出身の支配者と台湾人の流血を伴う軋轢が続いた。このような歴史は、一般的な教育機会では教えられない。
しかし、この複雑性を考えることなしに日本とアジア諸国の関係を理解することはできない。少なくとも各界の実務者は、近隣の人々のもつ経験が複雑であることくらいは基礎知識として叩き込んでおくべきだろう。