Wednesday, May 2, 2012

書評|宮本常一 『塩の道』 講談社 1985

宮本常一
塩の道
宮本常一先生と言えば、柳田国男の流れを組む民俗学者であり、農村経済の探求者であり、農業指導者であった。過疎地域経済の勉強をしていた大学時代、私が宮本先生の名前を出すと、人文系の友人から小一時間批判されたことがある。騎馬民族征服王朝説を支持した罪はかくも重いものかと考えながら、経済系の私は史学論争(友人は妄想だと言っていた)はさっぱりなので、今でも懲りずにおもしろい話だと思っている。

さて、本書『塩の道』は宮本氏のエッセイをまとめた短編集である。日本における製塩法や流通ルートの発達を民衆の歴史として書き出した「塩の道」、農村における食糧自給法の発達や穀物の多様化を考察した「日本人と食べ物」、気候や植生に順応し日本独自に発達した農具、建築、生活様式を描いた「暮らしと形と美」。農村の伝承を聞き取り、考古学的成果を丹念に追って組み立てられた三編の話は暮らしの基礎が先人の工夫の上にあることを教えてくれる。

民衆の歴史は文章ではなく、僅かな足跡としてしか残らない。そうした断片の接着剤として、想像の力は必須である。論の正否は研究の進展に負うべきだが、宮本氏の現場にとけ込んだ考察の鋭敏さ、柔らかさは読むものを刺激する。同時に、「食べる」「住む」といった基本的な生活の大事さや苦労、工夫を噛みしめることは、自己が肥大し、形而上の欲求に飛びつきがちな現代人に自分たちが成立する基礎をきちんと教えてくれると思う。

評価:★★★  (★★★:とても良い ★★☆:良い ★☆☆:普通 ☆☆☆:好きな人向け)
寸評:人間の知恵を思い知らされる。生き抜く知恵について考え直さざるを得ません。
参考リンク: amazon: 宮本常一「塩の道」

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